2013.10.15~17 武雄市・雲仙・久留米 視察報告

 1、行政がFacebookを活用

佐賀県武雄市~FB良品TAKEO~(自治体運営の通信販売)~

  武雄市は人口5万人の小さな市である。H18年に武雄市・山内市・北方町と合併したが、合併と同時に市長になった樋渡市長のユニークな取り組みが話題を呼んでいる。市の財政は、年間2億円の赤字といわれ、医師不足から市民病院の民営化を行った。その結果、市民や医師会からリコールされ、辞職したが、その後の市長選で再当選し、現在2期目。

 私は、2年前に文教・子ども委員会で「ipad」を使った教育、「ipad図書」の取り組みを視察した。武雄市は2度目となるが、今回は自治体運営型通信販売サービス「FB良品武雄」(Facebookを利用)とTSUTAYAに民間委託した図書館を視察した。

 「FB良品武雄」は、「地域の良いものを全国に発信」をコンセプトに、H23年から始めている。佐賀牛とレモンリーフのたった2品目から始めたが、今では他15自治体と提携し、商品も150以上と増えている。今後は販路をアジアにも広げようと、400万人のフォロワーをもつ「ジャパン・サテイスファクション・ギャランテード」と提携し、現在、シンガポールに事務所開設準備のため、職員1人を派遣している。

 これを説明してくれた管理栄養士で市民病院民営化により市職員に引き抜かれた女性職員の説明がすごかった。とにかく公私の別なくいつもFBに効果的に投稿することを考え、自分の感性を信じ、楽しみながら上手に売り込みをかけていく姿は今までの公務員の姿とは異なる。トップである市長の姿勢がそのまま職員に波及しているのではと感じた。その後行った武雄市図書館がまたすごかった。温泉街の武雄市に突如ジャズの流れるスタバがはいるTSUTAYA経営する市民図書館が現れる。そこだけが東京代官山のTSUTAYAよりおしゃれ。沢山の若者、学生が利用していた。図書館は年中無休で朝9時~夜9時まで開館している。月平均人口の倍の人数が来館しており、8割以上の市民が満足しているという。運営の質確保の懸念や個人情報管理の問題はあるが利用者の満足度が高いのは確かであった。

 武雄市の事例をそのまま目黒区にあてはめることはできないが、財政難を理由に予算を削減するのではなく、柔軟な発想による新しい取り組みにより、まちの人々の満足度を上げていくことができると確信した視察だった。

 

2、長崎県雲仙~コロニー雲仙(障害者就労・生活支援)

~「ふつうの場所でふつうの暮らし」をモットーに~

 

「コロニー雲仙」を運営する社会福祉法人南高愛隣会の創設者は政治家の秘書としての経歴をもつ。施設を開設する際、障害のある方から「家に帰りたい」「お弁当をもって仕事に行きたい」との声を聞き、その希望をかなえるためにS53年にコロニー雲仙を開設した。それまで障害者施設は、一度施設に入ったら卒業することはなかったのである。現在、南高愛隣会は相談事業、更生支援、就労訓練、就労支援、生活支援、医療支援、居宅介護と600人の職員、長崎県に5つの事務所をもつ。その1つの事務所に隣接する「就労支援コロニー雲仙」でも沢山の若い職員が出迎えてくれた。しかし、離職率は高く、平均勤務年数だいたい3~5年だそうだ。低賃金、重労働に加え、責任の重い現場の様子がうかがえた。

 様々な事業展開している南高愛隣会であるが、一番驚いたのは自主事業として結婚推進事業をしていること。「障害のある方も人を好きになります。ただ人が介入しないと難しいのですが、結婚されお子さんがいらっしゃるかたもいます。」という言葉は印象的だった。また、施設で暮らすのではなく、マンションを借りて、1人暮らしや好きな友達との生活をスタッフがサポートしながら行っている。

 「コロニー雲仙」にあるのは2つの事業所で「手延べそうめん」と「お弁当」を作っている。年間売上1億5千万で、事業戦略として新製品も出す。比較的軽い知的障害の方が多かったが、東京から転居してくる方もいるほど障害当事者の自主性を尊重した南高愛隣会の姿勢は、障害者だけではなく認知症を含む高齢者などこれからの日本の社会福祉モデルになるのではと思った。

3、久留米市~自殺予防事業~

  人口30万人の久留米市。人口27万の目黒区とあまり変わらないがh22年の自殺者を比較してみると目黒区53人に対し久留米市は68人と多い。年齢を比較すると久留米市は50代が多いが目黒区は30代が多い。最近の目黒区ではh23年に女性タレントが 区内の自宅で自殺してから20代の女性の自殺が増えているのが特徴である。久留米市の自殺者が多い理由に、福岡市に一極集中しているため、市全体の活気が失われていることも背景にあるのではと個人的に思う。 

  平成20年から始まったこの自殺予防の取り組みは「自殺対策富士モデル」(静岡県h19年~)を推進した医師の提唱により始まっているのだが、かなり気になる。久留米市には自殺のサインに早期に気づき、問題解決のために適切な関係機関につなぐ役割を担うゲートキーパーという市民のボランテイアが5000人もいる。この「ゲートキーパー」になるには、たった1時間半の研修を受けれいい。「パパ、眠れてますか?」のキャンペーンで沢山の方を精神科医へ送り込んでいるが、不適切な薬物投与で返って自殺者が増えた静岡県富士市の事が思い浮かぶ。

2012年7月号の新潮45 精神科医 野田 雅彰さんの記事

http://irohira.web.fc2.com/d34_Yakugai.htm

 

  厚労省の調査によると自殺の原因は1位にうつなどの健康問題、2位に経済・生活問題、3位に家庭の問題、4位に勤務問題と続く。うつなどの健康問題の裏には沢山の重層的な問題があると思われる。自殺は社会全体の問題であるとして、市は医療や教育、商工、雇用、農業、学識、地域、警察と連絡協議会を立ち上げている点、さらに、庁内に各所管を越えた「自殺対策連絡会議」を設置し、年に3回の会議を開催するなど、健康福祉だけの問題ととらえていない点は参考にできる。ただ、かかりつけ医がうつ病だと疑われる方を精神科医につなぐと加算(2000円)する点は、薬物投与を優先させるだけで、他にカウンセリング等の選択肢がないのは問題である。日本で一番大きい精神医学会の「日本精神神経学会」でも安易な薬物投与は既に不適切な治療の結果としての自殺や病気宣伝の問題が大きなテーマとなっている。世界中でも精神疾患の早期介入は問題になっている。

うつ病の怪 「悩める健康人」が薬漬けになった理由 『生活習慣病としてのうつ病』 井原裕氏インタビュー

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3121

 特に青少年期の早期介入の危険性が言われている。 精神科に抵抗もなく受診するのは若者が多く、不適切な治療で自殺率が上がっているとの報告もある。幸い久留米市の最近の20代の自殺率は上がっていないということであった。精神科医につないだ後、回復しているか追跡調査をし、自殺予防の在り方を常に検証していくことがとても重要だと考える。

広吉 敦子